守安祥太郎 響ジャズ 2

守安祥太郎 響ジャズ2

「聴衆は誰の真似でもない、彼自身のジャズに到達した守安が、日本のジャズの頂点に立ったことをいやおうなしに思い知り、もはや俺が代ろうと立ち上がるピアニストはいなかった」(日本のジャズ史 著者 内田晃一)

ジャズとウイスキー


「響が好きなのか?」

冷めたコーヒーを啜りながら、煙草に火をつける。

「まぁ好きだよ、美味しいよね」

「ウイスキーとジャズって相性が良いからな」

「響ってオーケストラをイメージして作られたウイスキーだよね」

「ブラームスの交響曲第1番第4楽章さ、特にすべての音が重なる厳かな導入部がイメージらしい」

「マスターさすが詳しいですね」

「個性豊かな演奏者たちの音が創り出すオーケストラの世界は、個性的なモルトやグレーンウイスキーを何十種とブレンドし作りあげる、ブレンデッドウイスキーの世界とよく似てるのかもな」

「ジャズもそうですね、そう考えると面白い」

「ジャズの場合は、個性がさらに強烈で少人数だろ、だからブレンデッドじゃなくてバデットだな」

「I WANT TO BE HAPPYって曲の守安祥太郎と宮沢昭のソロなんて最高のバデッドさ!」そう言いながら、叔父はコーヒーのおかわりを頼んだ。

「マスター、俺も最後にもう一杯いいですか?」

「おう」

幻の音源


守安祥太郎の存在を確認できる唯一の音源がある。岩味潔という録音マニアの学生によって、あの夜のセッションは録音されていた。

彼は、とある喫茶店の、ジャズ好きのマスターに依頼され、自ら作り上げた紙テープ録音機を会場へ持ち込んで、セッションを録音したのだ。それはとても大掛かりなもので、かなりの重量機材だったそうだ。後に普及するプラスチックテープが発売される前のことである。

録音状態も良かったこともあり、その音源は1970年代になって『幻の”モカンボ”セッション’54』として発売される。それは当時の熱気を伝える、とても貴重な歴史資料となったことは言うまでもない。

守安祥太郎を思う


天才と言われる人には、2種類あると思う。何をしたわけでもなく、ただ己の感性をフルに発揮し、とんでもないことを成し遂げるカリスマタイプと、血の滲むような努力を積み重ね、ある分野において突出した能力を身に付けるタイプだ。守安祥太郎というピアニストは、この両方を持つ天才だったのではないだろうかと私は思う。モカンボセッションは、間違いなくこの天才ピアニストを中心に存在していたからだ。守安祥太郎は恵まれた並外れた才能と、超人的な努力によって本場のジャズをいち早く習得し、まだ一般大衆には到底理解の及ばぬ最先端のジャズスタイルを牽引することの苦悩も同時に抱えながら、走り続けた。秋吉敏子、渡辺貞夫、宮沢昭など多くのジャズマンたちに大きな影響を与え、若干31歳という若さでこの世を去った幻のピアニストなのだ。

「練習量においては、俺が絶対に日本一です」と語った守安祥太郎。他にこんな言葉を残している。

「ジャズにおいては、ブラス楽器が男で、リード楽器が女なんだ。 そして、男女の恋の語らいの場を作るのが、だピアノ以下のリズム・セクションなんだ。 リズムは恋の舞台を作るだけ。絶対に二人の恋の邪魔をしてはならない」

さらに、「ジャズをやるには、とにかく自分の体力を限界いっぱいに使うんだ、そこで初めて頭の中に素晴らしいアイディアとか考えのようなものが出てくる。 ボロボロになった時にぱっと閃いたりする。そういうものを大事にするんだ。」

私は興味の続く限り、マスターの中にある、守安祥太郎という人間を知ろうとした。そして自ら勝手に作り上げた虚像は、決して推測の域を出ることはないが、彼の弾くピアノの音は奇跡的に残っている。それは何より、彼の全てを物語るものだ。当時のジャズとして画期的で、先進性にあふれた彼のスピード感あるピアノは、最先端のビバップを体得し、オリジナリティーに富んだ世界観をありありと表現しているように思えた。それは同時に日本のジャズ史への興味の扉が、私の中で開いた瞬間でもあった。

最後に


最後までお付き合いありがとうございました。勉強不足でとても偏った表現になっているかもしれませんが、私なりに自由に書かせてもらいました。 叔父との再会で、マスターや守安祥太郎のような天才ピアニストに出会えたことは本当に良かったと思っています。今までよく解らずに聞いていたジャズという音楽を、もっと知りたいと思うようになりました。実際に楽器を触り音楽理論を学ぼうとは思いませんが、リスナーとしてのジャズの楽しみ方や理解があるのだと思います。私にとってのジャズは何とも言えない独特の魅力が詰まった音楽です。プレイヤーを知り、歴史をなぞるように聞く楽しさや、大好きなウイスキーを飲みながら聞くジャズは最高です。存在感があるようで無いと言うか、その場の雰囲気を演出してくれるのに邪魔はしない、自然界の法則に逆らうことなくあるような存在感も好きです。自然風土が作り上げるウイスキーと相性がいいのは、似た者同士だからなのかもしれません。日本のジャズ史を紐解きながら、じっくり聞いて学び、そして愉しみたいと思います。みなさんも興味があれば、このモカンボセッションを聞いてみてくださいね!

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