ウイスキーがもつ味わいやブランドの価値は「他との比較」によって生まれる。単体で存在するのではなく比較の中にあって初めて魅力を放つもの。
例えばジャズライブでサックス奏者のソロが際立つのも、他の楽器と一体になった演奏があってこそ。歌の中に溶け込み、ステージの他の楽器と共演する中で存在感にメリハリをつける。その一体感あってこそのソロ演奏だ。
素晴らしい音楽や美味しいウイスキーは、聴覚や味覚に真の喜びを与えてくれる。
この「喜び」という感情を引き出してくれる「一本」に出会う旅をする。ウイスキーの面白さはこれに尽きるのではないでしょうか。
近年のハイボールブームでウイスキーを飲み始める人は増加傾向にあります。過去1980年代の第一次ウイスキーブームではサントリーオールド(通称ダルマ)が大ヒット。それは今でも日本のウイスキー史における出荷ランキング第一位ですが、80年代はブレンデッドウイスキーが日本人に広く認知された時代だったといえます。2010年代のウイスキーブームの違うところは、角瓶やブラックニッカのブレンデッドハイボールに始まり、スコッチやジャパニーズなどのシングルモルトウイスキーへ深化していく人が多く増えたこと。
その理由としては、80年代にはなかったスマホ、つまりインターネットによるSNSやYouTube、通販などのツールがあったこと。手に取ったウイスキーの情報がすぐに調べられるので、興味さえあればとことん学習でき、シングルモルトの魅力をいち早く体感できる。これはまさにグローバル化した時代の恩恵です。
話を戻しますが、ウイスキーの美味しさやその価値は比較から生まれると言いましたが、具体的にどうすればいいのか?それはとても簡単です。
「いいウイスキーを数飲むこと」です。
そんなことかと思った方は多いんじゃないでしょうかwww
でもこれに勝るものはありません。
人生は選択の連続です。「良い物を知る」ということは人生を豊かにするもの。お酒の選択もその一つです。角瓶しか飲んだことのない人の角瓶と、バランタイン30年を飲んだことのある人の角瓶は全く違ったものです。ただの安ウイスキーという認識ではなく、この値段でこのクオリティーがあるという角瓶の凄さに気付けるのです。そしてそれを楽しめるのです。
「ウイスキーは美味い不味いで判断するものではない」
上級者になれば味の流れを設定しながらウイスキーを楽しみます。例えば、すっきりしたドライなモルトからライトピーテッド、さらにヘビーピートへ移り、逆にスイートなモルトから酸味のあるシャルドネやシェリーカスク系、そこからソルティーピートへと言ったように「カウンターテイスト」を楽しんでいます。これは経験のなせる業ですが…。
僕がウイスキーを飲む理由は、未知数の新しい選択がどんどん始まっていく楽しさがあるからです。
あくまで僕の経験ですが、いいウイスキーを数飲むことで、味の好みやスペック、歴史などに向き合う姿勢が生まれ、ある一定レベルで判断・評価することができるようになりました。まだまだ勉強中ですが、自分なりのウイスキーにおける価値基準が設定されたことでウイスキーの選択から、こだわりのグラスや食器などの選択へ、そして生活の中にある他の選択までに波及し、飲むデザインから生活のデザインへ広がっていく面白い経験をしました。
ちゃんと酒の知識を持ったバーに行けば、正しい情報と共に良いウイスキーに出会えると思います。いつも飲むコスパのいいカクテルやビールという選択もそれはそれで悪くはないですが、少し投資してウイスキーの扉を開いて見て下さい!「ウイスキーは蒸留酒の王様」です。その意味を正しく理解すれば、決してただ高い酒というものではないことがわかると思います。生産コスト、熟成庫の維持費やマーケティングコスト、人材コスト、関税など金額設定に意味はちゃんとあります。
「飲みの場」は社会構造の中にある重要な一部として「いい時間を共有する場」であってほしいと思います。いい大人になれば「飲む物」と「飲む相手」くらいはちゃんと選ぶように、自分にとって喜ばしい時間、クリエイティブな時間になるかならないかを見極めることは大切なことです。いい時間は一本のウイスキーに向き合うことから始まるかもしれません。
では今夜も楽しいお酒を。issan