ハイランドパーク 最北端の密造者マグナス・ユンソン

ハイランドパーク

大小70の島からなるオークニー諸島は1999年に、新石器時代の遺跡中心地として、ユネスコ世界文化遺産に登録された場所で有名です。北緯59度、オークニー諸島の州都カークウォールにあるハイランドパーク蒸留所(1798)は、今から220年前に建てられたスコットランドで一番北にある蒸溜所です。オークニー諸島はとても強い風が吹くため、山にも高い木がありません。風速50メートル以上の強風日が、年平均52時間を記録するなど、厳しい自然環境である一方、比較的高緯度にありながらも暖かく、冬期でも氷点下になることはありません。(年間の平均気温は8℃前後)地元民はオーカディアン(オークニー諸島人)と自称し、豊かな民俗風習と方言を持っています。

このオークニーの冷涼な環境で育つウイスキーは、安定した低温熟成を経験し、湿潤な土地のため、本土の乾燥した地域よりもエンゼルズシェアが極めて少ない年間1~2%以下といわれています。

マグナス・ユンソン 闇の起源


セント・マグナス大聖堂

スコットランド最北のオークニー諸島・メインランド島は、マグナス・ユンソンによって密造酒が造られた地であり、そこへ1798年に建てられた、ハイランドパーク蒸溜所の闇の起源としても知られています。

マグナス・ユンソンはカークウォールにあるセント・マグナス大聖堂で庶務を担当していた聖職者。権威を嫌い、貧しい人々に常に温かい面を持つことで、村人達からは大変尊敬されていた人物であったといいます。彼の持つもう一つの顔は、ウイスキー密造者でした。昼は聖職者、夜は密造者としてウイスキー製造に勤しみ、取り締まりからは、巧みな話術や策略をもってうまく逃れ続けるユンソンを、オークニーの人々はウイスキーを届けるヒーローとも言っています。当時の大聖堂は、密造酒の恰好の隠し場所であり、祭壇や説教台の下、壁の裏等に多くの樽が隠されていたといいます。ですが皮肉なことに、1826年にハイランドパークを買収して蒸溜所のオーナーになったのは、ユンソンを捕まえに来た取締官のジョン・ロバートソンであったといいます。その後1937年にはエドリントン・グループの傘下におさめられ、1970年後半からはシングルモルトの生産に多くの出資を受けています。

ハイランドパーク蒸留所はマグナス・ユンソンの”闇のヒーロー”とも言える活躍にインスパイアを受けハイランドパーク・ダークオリジンズをリリース。

ハイランドパーク 蒸留所 1798 ~


新石器時代の名残とヴァイキングの影響を映すオークニーで、1798年以来、頑なに伝統を守り続けるハイランドパーク蒸留所は、スコッチの中でも十の指に入る、古い歴史を持つ蒸留所です。主要顧客である本島の大手ブレンダーへの供給の難しさという最北端ならではの問題に、直面してきたのも事実。困難を乗り越え生き延びてきたハイランドパークの原酒は今、市場で非常に高い評価を得ています。

現在ハイランドパークへ訪れる見学者は、年間3万人を超えるそうです。地理上、北欧や北ヨーロッパからの見学者が多いようですが、「飲む資格」を求め、はるばる日本からの見学者もいるそうです。蒸留所側のコメントによれば、ハイランドパークは謙虚で目立ちたがらない、本質を深く理解し、作り手の物語や伝統、歴史を求め、そこに価値を見いだす方に好まれる傾向にあるといいます。そんなハイランドパークのもつ魅力、そしてオークニーで造られるウイスキーのクオリティーはどうやって生み出されているのでしょうか?いくつか特徴をあげてみます。

仕込み水

珍しい硬水を仕込み水として使用。水はウイスキー造りにおいて命とも呼べるもの。ハイランドパーク蒸留所近くのクランティットの井戸水を主に使用することで独特の味わいを造り出す。

フロア・モルティング

製造に使う20%のモルトを、昔ながらの手作業で大麦を発芽させるフロアモルティングをおこなっています。とても重労働で繊細な作業ですが、丹精込めてモルティングさせたウイスキーは味・香り共に一味違います。

オークニーのピート

風が強く樹木の育たないオークニー諸島は、スコットランドのほかの地域とは異なるピートが採れます。低木のヘザーが数千年という時間の中で、腐敗と分解の末にでき上がった混じり気のない泥炭(ピート)は、焼くととてもいい香りがします。オークニーならではのピートで造られるハイランドパークは他にはない香り・味わいを持っているのです。

シェリーカスク

ハイランドパークの風味を左右するシェリー樽。樽作りに使用する木が育つのに約100年。その木を切って乾燥に4年、樽になってシェリーシーズニングに2年を要します。トータルで106年もの時間がかかるといわれ、ハイランドパークはそのすべてのプロセスを自社でマネージメントしている数少ない会社でもあります。スパニッシュオークとアメリカンオークのシェリー樽を主に使用し、ウイスキーの風味を最大限に引き出したハイランドパークのウイスキーは、独特のコクと重層的な複雑さを生み出しています。

スコットランド最北の地、オークニーで造られる唯一無二のウイスキーは、こうした風土のもと長い年月をかけて育てられています。私も大好きなハイランドパーク蒸留所の紹介でした。先ほど紹介したダーク・オリジンズの他にハイランドパークの主なラインナップをご紹介します。最後までお付き合いありがとうございました。

ハイランドパーク 主なラインナップ


ハイランドパーク 12年

この12年物は、究極のオールラウンダーとも称される一本。蜂蜜と優しいピートのフレーバーがバランスよく、フィニッシュはとてもドライ。

 

ハイランドパーク 18年

口に含むと12年ものよりも少し甘みが強く、ピートのスモーキーフレーバーがフィニッシュにかけて広がっていく。コクがあり口当たりも滑らかな一本。

 

ハイランドパーク 25年

ヨーロピアンオーク樽でじっくりと熟成した琥珀色はファーストフィルのシェリー樽からもたらされたもの。酒齢に似合わない芳醇なナッツフレーバーがあり、ドライフルーツやスモーキーなアロマが特徴。

 

ハイランドパーク 30年

ハイランドパークのフラッグシップ。カラメルの甘味と、スパイスの香り。ダークチョコを思わせるようなフレーバーがあり、フィニッシュはドライかつスモーキーでほんのり塩気も感じられる。口当たり滑らかで余韻も長い。

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