前衛的で伝統的。気になるアメリカンシングルモルト。
ウエストランドは2010年アメリカ西海岸北部のワシントン州/シアトル/ソードーにオープンし、トウモロコシを主原料としたバーボンではなく大麦100%のシングルモルトを造っている蒸溜所です。設備や工程などスコットランドの基本的なシングルモルト製法を採用し、シアトルにある風土や文化を最大限に表現することを目的とした原産地追求型の蒸溜所だ。
ワシントン州には世界屈指の大麦栽培地帯があり大麦品種も15000を超える。最大都市シアトルはクラフトビールブーム発祥の地でもあるため、ここでシングルモルトが造られるのも自然な流れといえばそうである。発酵に使う「酵母」の種類も大麦品種に因んでいるものと思われるので、これはかなり恐ろしいポテンシャルを持っていることになる。
スコットランドでもウイスキーに使用する大麦は多種ありますが、時代とともに改良が重ねられアルコール収量の多い、つまり糖質の多い大麦へと進化させてきました。現在では限られた近代品種をどこも使用していると思われます。アイラのブルイックラディではスコッチでも珍しい原料追求型の蒸溜所で、オーガニックモルトや古代品種を使ったリリースがあるのを覚えている。
ウエストランドの特徴は、それぞれ異なる焙煎を施した5種のモルトを使用するところにあります。1、ペールモルト 2、ミュンヘンモルト 3、エクストラスペシャルモルト 4、ブラウンモルト 5、ペールチョコレートモルト。これらを組み合わせて造っている。それぞれ焙煎度合いを変えることで、大麦の多彩な風味を生み出しているのです。こういったやり方はスコッチではあまり聞くことがなく、確かグレンモーレンジのシグネットくらいかな?焙煎したチョコレートモルトを使っていて、それも原料全体の約一割程度だったと思うが、チョコの甘く香ばしい風味があり美味しかったのを覚えています。
ウエストランドの代表的なボトルは「アメリカン・オーク」「シェリー・ウッド」「ピーテッド」の3種。ギャリアナオークなどその他リリースもありますが、先ずはこの3つをここではテイスティングします。(700ml 46%)
AMERICAN OAK 46%
香 ニッキを思わせるクセのあるウッドスパイスに油性マジックの粘性のあるニュアンス、新しい家具を思わせる切り出した木材のアロマ。ドロップ飴にあるスッキリとしたオレンジやレモンのフルーツ。黒糖、蜂蜜、バニラなど。
味 カカオの様な苦味とピリピリッとスパイシーなウッディネスがファーストのイメージ。ザラザラした粉っぽいモルトのテクスチャーがあり、甘いフルーツが優しく広がる。フィニッシュにかけてみずみずしい滑らかな舌触りに変化し、それなりに余韻も長い。飲み進めるにつれてトロピカルフルーツの風味が強くなり、程よい酸味を伴ってバランスのとれた全体像へと仕上がっていく感じ。アメリカンオーク新樽のパワフルな熟成をしっかりと味わえるウッディなシングルモルト。スコッチにはない焙煎モルトの奥深さを体験しました。
SHERRY WOOD 46%
備考:シェリー樽(オロロソ・PX)原酒30%。アメリカンオークの新樽と1stフィルバーボンで3年熟成後、シェリー樽でフィニッシュした原酒50%。残りの20%はノンシェリー原酒という構成。
香 濃く出した紅茶のような華やかでビターなアロマ、油性マジック、干し葡萄などの濃縮された甘フルーツ。ニスを塗った木の床、かすかにニッキ飴のようなウッドアロマが特徴的。
味 濃いフルーツの酸味と甘さが口に広がり、クセのないウッドフレイバーが鼻に抜ける。ホワイトチョコのニュアンスもあり、フィニッシュにかけて、みずみずしくさっぱりとした飲み心地へと変化する。飲み進めるとアメリカンオークの樽感が強くなり全体的に厚みがでてくる。スコッチと言われても多分わからない。シェリーカスクの恩恵を豊かに受けたアメリカンシングルモルトです。この中では一番親しみやすい。
PEATED 46%
備考:ピーテッドモルト(55ppm)は全体の20%でスコットランド産。原酒構成はアメリカンオーク新樽70%、1stフィルバーンボン樽30%
香 清々しく爽やかなピート、微かに柑橘、香ばしくクリーミーな樽のアロマ
味 まろやかで芳醇な甘味、シュワシュワした微かなスパイス、香ばしく程よいピートフレイバーが三位一体となって最後までしっかりと続く。心地よい余韻。アメリカンオーク新樽の粘性のある甘さにドライなピートが加わり、スッキリ心地よく洗練された味わいがあった。バランスの取れた完成度の高い一本だと思いました。
それぞれ飲み比べると一貫したキャラクターに気付きます。それこそがウエストランドのシングルモルト造りにおける主要風味であり、これからのチャレンジに注目したくなるシアトルフレーバーでありました。