午前8時50分。天候晴れ。荷物をまとめ終えタクシーをホテルの前で待つ。日曜日のボウモアの町には誰一人見当たらない。時間通りにタクシーに乗り込むとポートアスケイグまで向かった。50代くらいのドライバーに日本でウイスキーバーを営んでいることを話すとボウモアタクシーサービスの名刺を束でくれた。笑 道中クレジットカードが使えないことが判明。そんなことある?慌ててキャッシュを探すとギリギリ足りた。今から両替する時間はなかったのでホッと胸を撫でおろす。ポートアスケイグもポートエレン同様小さな港町だった。ネットで見たポートアスケイグホテルが目の前にあった。アードベッグにいた見覚えのある外人さん達も数人で乗船を待っていた。大きなフェリーは既に港に着いており船員が忙しく点検を行っている。近くで見ると本当にでかい。フェリーに乗るのは何年ぶりだろうか、胸が躍った。Eチケットを受付で見せ、切符をもらう。待合室は朝日が差し込み暖かい。そこからは穏やかな港の景色をガラス越しに見ることができた。少し遅れてフェリーは出航し、私は三階のカフェラウンジでアメリカンコーヒーを注文した。小さなカウンターの中には腕に大きなタトゥーが入った大柄な男が働いていて、お釣りの5ペンスをそのままもっていかれた。まあいいや。それにしてもこのアメリカンコーヒーというのはなんとも微妙なものだ。ラウンジを離れ、向かいのドアを開けると客が食事をしたり酒を飲んだり賑やかな食堂のような場所があった。空いていた席に座りスケジュールを確認する。結局そこでは何も飲まず食わずで時間を過ごし、時折船首の方へ出ては壮大なブルーグレーの景色を楽しんだ。自然の力が人間を勝っている。その昔、富士登山で同じようなことを思ったことがあった。当前のことだが普段の生活にはそう感じる機会は少ないものだ。風の影響でいつもよりスピードを落としての運行なのだろうか。ろそろ到着時間だがその気配は無く、結局30分ほど遅れてケナクレイグ港へ着いた。バスの時間と同時だったので急いで船を降り全力で走った。息を切らしてドライバーにグラスゴー行きかと尋ね乗り込む。事前にCityLinkで取ってあったEチケットを見せ、無事席に着くことができた。
終点グラスゴー・ブキャナンバスセンターまでの3時間。広大で美しいハイランドの景色を車窓越しに楽しんだ。途中2か所ほどバスは停車しさらに人が乗り込んできた。空いていた隣の席に20代の男性が座ると、イヤホンからヒップホップが漏れてきた。ちょっと窮屈になったが仕方ない。余談だがグラスゴーは2008年ユネスコ音楽都市に選ばれたことでも知られるように、様々なジャンルのアーティストを輩出している。個人的には映画キック・アスでも使われた「プライマル・スクリーム」やポスト・ロックのインストバンド「モグワイ」、ソニーウォークマンAシリーズのCMで知られる「フランツ・フェルナンド」などを知っている。プライマル・スクリームのスクリーマデリカはよく聞いた懐かしいアルバムだ。自分もタブレットを取り出しミュージックフォルダから「シン・サキウラ」のアルバムMirrorを選んだ。バス終点から更にエディンバラ行きへのバスに乗り換える。約1時間30分後、予約していたヨークハウスホテルに到着。アイラを朝に発ってエディンバラに到着したのは午後6時になろうとする頃だった。半日を移動に使ったことになる。早速部屋へ行って荷をほどき、シャワーを浴びた。面白いほど長方形な部屋の窓から外を眺めると歴史ある石造りの古都エディンバラがそこにあった。さっきの二階建てバスから見たエディンバラ城に一人興奮し、その冷めやらぬ高揚感と共に陽の落ちかけたクイーンストリートを一人歩いた。ここまで統一感のある石の世界を私は知らない。スゲェ。ホテルを出て西に1キロほど歩いたところでZESTというエスニック料理店を発見。そしてためらうことなく入店。グラスゴーで生まれたレシピと言われるチキンティッカマサラを迷わずオーダーした。スコットランドへ来て初めての米だった。ティーキャンドルが二つ仕込まれた保温器具のようなものにターメリックライス皿とカレー皿が乗せられ、そこから取り分けて食べるようになっていた。感動の美味さ。この手の料理はおそらくどの国で食べてもハズレないだろう。大満足しホテルへ戻る。明日の準備が終わるとベットに横になった。ふとエディンバラ城の入場券を買い忘れていたことに気付く。起きてBooking.comからEチケットを購入。そして深い眠りについた。
朝6時。ああ腹減った。そういえばこの国へ来て眠れなかった日はなく、どのホテルでもしっかりと熟睡できている。スコッチのお陰だろう。でも時差はずっと解消できず夜7時頃には眠気が襲ってくる。時には午前3時に起きてそのまま朝まで調べ物をしてたりもした。日本の生活時間のまんまだった。ヨークハウスホテルはシャワー・トイレが共用となっている。これもネット予約時には気付かなかったことだ。最初はしまったと思ったが、同じ階で他の宿泊客と会ったことは一度もなくほぼ独占状態だったので気兼ねなく利用できた。朝7時頃ホテルを出て昨日歩いたクイーンストリートを西へ歩きキャッスルストリートを南へ、そこのコスタコーヒーに入りクロワッサンと珈琲をオーダーした。朝食を取りながら行きかう人々を眺める。気持ちの良い朝だ。空は青く澄んでいる。
アイラ島とはまるで違った忙しい都会の朝がここにはあった。エディンバラ城は目と鼻の先にあり、昨日見たバスからの眺めをどうしてももう一度見たかった。プリンシズストリート公園のベンチに腰を下ろし断崖絶壁上に佇む城塞を見上げる。自分のノーパソの壁紙と同じ絵が目の前にある。公園を一周し城のベストアングルを探ってみる。俺こんなに城好きだったっけ?笑。気温3度の中ではやっぱ動いている方がいいと思い城の西側へと歩を進める。オールドタウンは入り組んだ道や階段が多く至る所に歴史を感じる。大豆のトマト煮込みの匂いがした。一目では何の店か分からないガラス張りの食堂?ではまさにそのトマト煮を美味そうに食べる人を見た。エディンバラ城へたどり着き城門でチケットを見せる。入ってすぐのインフォメーションで日本語の案内図をもらう。城内のアーガイル砲台からは街が一望でき、モンス・メグ大砲とその石の弾に面食らう。レストランやウイスキーショップもある。見学内容は省略するが、印象に残ったものはと言えばプリズナーズゲイトとスクーンの石だった。スコットランド史を深く知っている人ならばもっと楽しめただろう。イヤホン音声ガイドも複数言語でレンタルできるようだ。エディンバラ城から東のホリールード宮殿までの1マイルを「ロイヤルマイル」と呼び、そこはイギリスでも二番目に観光客が集まる場所。街全体が世界遺産にも登録されており、私がエディンバラに来た理由もロイヤルマイルを歩いてみたかったからだ。
歴史的建造物やカシミア専門店、スコットランド料理店やカフェバー、ウイスキーショップなどが軒を連ねるロイヤルマイルはまるで18世紀へタイムスリップしたような雰囲気。建物と建物の間にはクローズ(CLOSE)と呼ばれる小道があり全てに名前がついている。スコットランド・エディンバラをネットで見るとよく出てくるあの小道だ。いくつかその小道を進んでみるとカフェや雑貨屋、住居に行き着く。まるで迷路のような高低差のある複雑な造りになっていた。地下都市も興味はあったが今回は諦めることに。時間の許す限りウイスキーショップを巡る。ベンチに座り目に見えるもの全てをつまみに、購入したスコッチの小瓶(50㎖)を傾ける。グラス持って来ればよかったと欲張る。昼食をとるため「THE FILLING STATION」へ入店。「ハギス・ニープス・タティス」をオーダーした。スコッチ風味のブラウンソースとハギスの相性は抜群で、そこそこボリュームのあった皿をスコティッシュエールと共に一気に平らげた。ハギス美味いじゃん!店員さんに感想を聞かれ、感動したようなジェスチャーをして両親指を立てた。夕方ホテルに戻り休息をとる。空腹に備え近くのTescoでサンドウィッチとナッツ、オレンジジュースとチョコタルトを買い出す。慣れないセルフのレジもうまくいったが袋がもらえず、商品を裸で両手に抱えてホテルへ戻るはめに。昼からスコッチを飲み続けていたのもあり、フワフワしたままシャワーを浴びてベットに転がり込む。なんという楽しい時間だろう。明日は昼のバスでグラスゴーへ行く。