ガイアフロー静岡蒸留所
以前から気になっていた静岡のクラフトディスティラリーへ見学に行ってきました。ここ「ガイアフロー静岡蒸溜所」は、洋酒の輸入販売会社ガイアフローを母体とするガイアフローディスティリングが、静岡市北部にオープンさせたウイスキー蒸溜所。事の始まりは2015年、ガイアフロー社が当時長野県にあった「軽井沢蒸留所(1956-2012)」を買収したことから始まります。
今では伝説となりつつある軽井沢(1976年発売)というシングルモルトは、国産初の100%モルトウイスキーで、当時1万5000円という高価なボトルでした。軽井沢蒸留所の繊細で華やかなニューポットを生み出すポットスチルや、モルトミルなどその他設備も静岡へ持ち込まれ、再び息を吹き返すことになったのです。
南アルプスの山々を源とする安倍川の清流に恵まれたのどかな静岡の葵区落合555番地はJR静岡駅から車で北へ約50分(新静岡ICからは20分)のところに静岡蒸留所はあります。今回ここへ来たのは世界でも唯一、薪(まき)による直火焚きの蒸溜機をこの目で見てみたいと思ったからです。同蒸溜所の創業は2014年、生産が始まったのは2016年、今年で3年を迎えるまだ新しい蒸溜所です。
駐車場から歩いて蒸留所の入り口まで行く際、地元の間伐材と思われる木々が積まれた場所がありました。この向かいには大きなプールのような貯水槽があり、蒸留所で使用された水がここへ流れ出る仕組みとなっているようです。この水はもしもの火災など防災対策としても利用されるようです。
受け付けは蒸溜所2Fのビジターセンターで行います(要予約)。そこからガラス越しに見える巨大な設備に思わず圧倒され、視界に飛び込んできたのは世界唯一の薪焚き蒸溜機でした。銅製の鈍い輝きを放ち、黒く煤けた大きな炉の小窓からは赤々と燃える様子が確認できました。
杉製の発酵槽
最初に案内されたのは1Fにあるウォッシュバック(発酵槽)の下部が並ぶ場所からでした。全8基あるウォッシュバックのうち4基は珍しい杉製(地元産)で、残りの4基は米松製となっています。容量は8000ℓで大阪にある老舗桶メーカーが製作したとのこと。
近代的なステンレス製の発酵槽は使わず、あえて伝統的な木製の発酵槽を使用することで内側に菌が住み着き、より深みのある風味・味わいを生み出すといわれています。珍しい杉製の発酵槽は松製に比べフルーティーなモロミができる特徴をもっています。異なるモロミの生産が可能となっているうえに、ウイスキーづくりにおいて命ともいえる仕込み水は、硬度80の中硬水を使用しているというのも大きな特徴です。
モルトミル
原料の大麦は茨城、栃木、北海道などの国産からスコットランド、ドイツ、カナダの外国産のものをミックスしているようです。配合率については一定ではないということもおっしゃっていました。
オレンジ色のサイロ(大麦貯蔵庫)が設置された通路ではアンティークとも呼べるポーティアス社製(イギリス)のモルトミル(麦芽粉砕機)が設置してありました。このモルトミルは軽井沢蒸留所で実際に使用されていたものを移設し、現在も静岡蒸留所で現役稼働しています。
今はもうなきメーカーで軽井沢蒸溜所時代から使用され続けているものです。非常に頑丈でシンプルな構造となっているので修理や特殊部品などのサポートが必要ないという利点と、職人の勘を伴う手動でのセッティングは、他のモルトミルにはない上質な粉砕の振り分けができるようです。
モロミ
マッシュタン(糖化槽)は確か6000ℓ、ここで粉砕した大麦と温水を混ぜ合わせ甘い麦汁がつくられます。その後、麦汁は20度程度に冷却されウォッシュバックへと送られます。オールステンレスのマッシュタンに触れると熱く、小窓からは麦汁か見えました。
マッシュタンは日本の三宅製作所製。
そこから今度はウォッシュバックの上部(2F )に向かいます。その日は見学人数が少なかったことが幸いし特別に発酵槽の中を見ることができました。酵母によって糖がアルコールへと変換されブクブクと膨れ上がる泡、甘い何とも言えない香りが漂っていました。
発酵槽の上に取り付けてあるモーターは、モロミから上がってくる泡を切るための装置です。この背面に蒸留所スタッフのオフィスもあります。
通常発酵は24~48時間で行い、その後2日間の放置によって乳酸菌が活躍しモロミに更なる香味を与え、すっきりとした酸味もこの時に生まれます。松製はどっしりとしたモロミ、杉製は華やかなモロミが生まれ、それはまさに酵母が麦汁の糖をアルコールへと変換する神秘の瞬間といえます。
蒸留
「薪の直火焚き蒸溜機」と「伝説の軽井沢蒸溜機」をじっくり眺め、その形状と加熱方式の違いが生み出す酒質をイメージする。何ともおかしな妄想だが、蒸留機を間近で拝見できた感動は、自分がウイスキーファンの一人として萌えていることを再認識させられた瞬間でもありました(笑)そして中央には少し小さめな再溜機がありポットスチルは全3基でした。
特殊な防火服を着て丸太をそのまま豪快に投げ込みます。高温で焼き尽くすため燃えカスはほとんど出ないとか。
黒く煤けた大釜。焚く燃料は地元の間伐材を使い、薪焚きの温度は700~800度と高く、煙突から出る煙の温度も500度を超える約そうです。この釜は東京の老舗メーカーが製作したもので内側は全て耐火煉瓦でつくられています。その釜の上に本場スコットランドのフォーサイス社製ポットスチルが据えられている構造となっています。スチルの中にはラメジャーと呼ばれる銅製の鎖が回転し、焦げ付きを防ぐ構造となっています。
薪焚き蒸留機の右隣には再留釜(左)が設置してあります。その再留釜を二つの初留釜が挟むようなかたちで軽井沢蒸留機(右)が設置されていました。写真では分かりにくいと思いますが、軽井沢蒸留機のレトロなネックから真横に曲がったスワンネック、そして絞り込まれたラインアームが印象的でした。
熟成庫
その後エイジングセラー(熟成庫)を見せていただきました。そこには約300の樽がダンネージスタイルで貯蔵されており、タイプも様々でした。空調はなく自然界に近い状態で、最低3年と1日以上の熟成が行われています。存在感のあるこの二つの蒸留機は、軽井沢蒸留所から移設されたもの。
もう一つのセラーでは3000樽を貯蔵していると聞きました。現在ガイアフロー静岡蒸留所ではプライベートカスクの販売も行っていて、世界で自分だけの特別なウイスキ―プロデュース体験ができます。樽のサイズは55ℓのオクタブ樽、110ℓのクウォーター樽、180ℓのバレルと3種あり、樽に詰めるニューポッドは「薪焚き蒸溜機」と「軽井沢蒸溜機」で選択できるようです。
プライベートカスクの金額や見学予約、その他の情報はブログで。
http://www.gaiaflow.co.jp/blog/
THANKS
この度の見学はとても楽しい時間でした。情熱をもって仕事をされているスタッフや職人さんたちのパワーをいただきました。私がウイスキー好きな理由は、作り手の思いや情熱、それを受け取る飲み手との深いコミュニケーションが魅力的であることです。
二つのポットスチルが蒸留したそれぞれのニューポッドをビジターセンターで試飲(有料)させていただきましたが、フルーティーで甘味のある軽井沢蒸溜に対し、どっしりとした骨太感とスパイシーな味わいの薪焚き蒸溜、どちらも素晴らしいものでした。みなさんもぜひ蒸溜所へ足を運びそこでしか味わえないウイスキーを飲んでみてください。今回はニューリリース間近の静岡蒸溜所の見学について記事を書かせていただきました。
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