アードベッグ蒸留所はアイラバスの最終地点。雨と風の中ビジターセンターへ向かう。ウインターシーズンだけあってお客さんは少ないようだ。「日本の方ですか?」とグループの一人が話しかけてくれた。びしょ濡れの俺を見て、良かったらボウモアまで車でお送りましょうか?と言ってくれた優しい方がいたのだが、せっかくアイラ空港のおばちゃんの提案を無視してここまで来ただけにやっぱり断った。ご親切には感謝したい。まだホテルのチェックインまで時間があったのと、最終のバスさえ逃さなければ何とかなると思ったからだ。もしまたここへ来ることがあればその時はレンタカーを借りるのがいいと思う。仲間と数人で来れば日替わりローテーションで運転すればいいし、単純な一本の道が続くアイラ島を一周ぐるりとドライブしてみたくなったからだ。ここの景色はきっと楽しいドライブになると思う。ここへ来るまでは何かあれば最悪歩けばいいと思っていたが、それは穏やかな気象条件のもとでの話だ。少し考えが甘かった。アードベッグのビジターセンター内にはキルンを改造して作られた「オールド・キルン・カフェ」がある。お土産などを一通り見て歩き、レジに立っていた若い女性に早速アードベッグ・コリーヴレッカンとアン・オーを無料試飲させてもらう。身体が中から温まる。この島にこのウイスキーが存在する意味がなんとなく分かった気がした。次に飲んだことのなかったパーペチュームをオーダー。確か£5だったと思う。ここで飲むアードベッグはどれも格別だったが個人的にはフレンチオークのコリーヴレッカンが好み。日本に帰ったらまた買おう。若い男性スタッフも現れ、なにやらロンドンに発送するための梱包をしていた。こういう絵が見れるのもいい。彼はウイスキーの説明のため他のテーブルに呼ばれ、身振り手振り伝えていた。どんなこと言ってんだろう。彼女にWi-Fiルーターを充電してもらってる間、カフェメニューを見るとスコティッシュビーフを使用したアードベッグバーガーが目に留まる。そういえば今日はグラスゴー空港で軽い朝食を取っただけだった。早速カプチーノと一緒にオーダー。美味い。スコティッシュビーフは柔らかく、さっぱりとしつこくない、あまりのクセのないパテだった。もちろん味はよかったんだけど薄味でケチャップが欲しくなったがそのまま完食。アードベッグロゴの入ったカプチーノに癒される。そして幸運なことにこの後、カフェにいたアメリカ人二人にラフロイグまで送ってもらえることになった。助かった。
ラフロイグ蒸留所へ。車で送ってくれたカリフォルニア出身の二人に礼を言い駐車場で別れた。ビジターセンターは蒸留所の奥、海岸手前にある。大きなラフロイグ樽が置いてあるのが目印。ビュウビュウと音を鳴らし吹き抜ける海風。寒い。冷たいグリーンのドアを開けると風の音が嘘のように消え、温かみのある落ち着いた空間がそこにあった。「ハロー」と一人の女性スタッフが声をかけてくれた。荷物を預け、まわりの棚を見るとロゴ入りグラスやコースター、Tシャツ、バッグなど充実したラフロイググッズが置いてある。グッズフロアの奥にはバーがありラフロイグカラーの緑を取り入れた洒落たラウンジがあった。ゆっくりとソファに座ってツアーまでの時間を待つことに。さっきの女性スタッフさんがカウンターに移動したので、好みのカスクストレングスものを色々と見せてくれ試飲もさせてもらう。ラフロイグ・カーティスのコルクが破損するハプニングがあったが笑って対応してくれた。有意義で貴重な時間を過ごせている実感がある。ここではラフロイグ・カーチェス・カスクストレングスとトリプルウッド・カスクストレングスそして10年カスクストレングスなどを飲んだ。彼女のおすすめは10年のカスクストレングスで一番好みだそうだ。甘味やピートの強弱、濃縮感などどれも違った味わいがある。今までどこかワンパターンだったラフロイグの印象が大きく変わった。美味い。すっかりラフロイグの虜になっていた私。ここで飲むことでさらに豊かな味わいになったのは言うまでもない。アードベッグで3杯。ラフロイグでも3杯ほど飲んだのでまあまあのほろ酔い状態。おすすめの10年のカスクストレングスは買って帰ろう。それもネットで調べてみると日本では倍の金額で売られてたし、なにより美味かった。ツアー開始時間になり参加者はグッズフロアに集められ代金を支払いツアーが始まった。
ラフロイグツアーではまず大麦を発芽させるためのフロアへ案内された。開いた窓から冷たい風が吹き抜けるコンクリートのフロア。水分を含ませた大麦がここに敷き詰められ、「麦芽」にするためのフロアモルティングが行われる。ラフロイグはフロアモルティングした自家製モルトと、購入したモルトを原料にウイスキー作りを行っている。スプリングバンクのように自家製モルティング100%ではないにしても昔ながらの伝統作業を今でも行い、オリジナリティーのある原酒を作っている。麦芽を乾燥させる「キルン」の中へも入らせてもらった。初めて入ったキルンは細かい網の鉄製の床がある部屋になっていて、そこへ麦芽を敷いて下から熱風を送り乾燥させる構造になっている。なるほど。また一つ謎が解けた。ピートスモークで燻される工程でもあるので部屋の中は大麦の香りと温かみのある薫香が充満している。正直ツアーといても日本語訳の何かがあるわけでもなく、英語はまあまあそこそこと言えば言い過ぎになる僕。要所要所で言ってることがなんとなくわかる程度だった。しかし日本でそれなりに学んできたことが功を奏し、これがあのそれかと一人感動していたのであった。
実際に乾燥麦芽を食べてみる。とてもやさしい薫香のついた大麦だったので、これがあのパワフルなピーテッドモルトになるのかと不思議に思う。階段を下りてピートを炊き込む炉があるところへ行くと床にどっさりとピートが置かれていた。嗅いでみると驚くほど無臭だった。乾燥させた麦芽は粉砕され糖化麦汁へ、そこへ酵母を投入し発酵。そうして生まれるモロミも試飲することができた。生温く酸味があってやや甘い。アルコールはさほど感じず、アンバランスな味。日本で蒸留所見学に行った時も思ったことだが、この工程ではいつも同じような独特の生々しい臭いがある。乱暴に言うと臭い。笑 糖化層や発酵槽を制御するレトロなコンピューターが可愛かった。それからポットスチルの設置されている蒸留室を見学し熟成庫へと続く。最後にビジターセンターで試飲してツアーは終了。もっとゆっくりしたいところだがバスの時間が気になる。スタッフさんに簡単な地図を書いてもらい蒸留所の入り口付近で最終のバスを待つことに。アイラバスのタイムスケジュールを見てもわかるようにラフロイグ停留所というものはない。手を振って合図すると乗せてくれるからと教えてもらったのでその通りにした。こうしてボウモアの町へ無事にたどり着くことができた。
ラフロイグからボウモアの町に到着。チェックインしようと予約していたタ―バートハウスへ。ベルを鳴らしても応答がない。あれ。とりあえず近所を歩いてみる。ボウモアの町に人は少なく時々車が走り抜けるだけだった。冷たい風が身にしみる。もう一度ホテルへ戻ったがさっきと同じ反応。とそこへ50代くらいのオジサンがやって来て、ここのホテルの管理者は先にあるピートツェリアにいると教えてくれた。ありがとう。ピートツェリアへ行ってみるとカフェレストランだった。若い女性が2人いて、待ってましたと封筒とカギをくれた。はいはいそういうことかーじゃねーだろ。ネット予約したこのホテルはこの大事な詳細を載せてないよ。トリップドットコムの責任か?もしくは事前に何かメールでも来てたのか?分からなくなった。部屋へ行き真っ先にシャワー室へ。復活!ここでもコーヒーはネスカフェ。旅は道づれ世は情け、日本から9200キロの旅。イギリス北部スコットランドの西の離島にいる。ボウモアはどこか鞆の浦に似た小さな港町。世界的に有名なスコッチウイスキーの聖地として知られ、島には計9つの蒸留所がある。明日はラガブーリンとボウモアへ行く予定。どうにか晴れて欲しい。このホテルには今日と明日2泊の予定で、明後日は朝一のフェリーでポートエレンからケナクレイグ港へ、そこからバスで古都エディンバラまで行く予定だ。アイラ空港からバスは利用したものの、タクシーに関してはネガティブイメージのまま。とりあえず飯食ってしっかり寝よう。ウイスキー研修ゆえ酒はもちろん飲む、体調でも崩せばゲームオーバーだ。その日はしばらく部屋で休んだあと暗くなってからさっきのピートツェリアへ行きピザとビールを注文した。一組の家族が食事を楽しんでいるのを中二階席から眺めながらノーパソをWi-Fi接続した。程よく冷えたスコティッシュエールが美味い。そこへとんでもないビッグサイズピザがやって来た。ああ間違えた。しかもなんで?マルゲリータを頼んだのだが、そのピザにはバジルが一枚ものっていなかった。品切れだったらパセリでもいいから緑をくれ!悔やまれる。腹いっぱいになって、最後にレジでチョコアイスをカップで追加注文し部屋に持って帰る。今夜はチーズお化けの夢を見そうだ。ベットに横になり携帯で今日撮った写真を見る。日本で借りたWi-Fiルーターは4G から時折3G たまには2Gまで落ちたがアイラ島では何とか使えるようだった。よく考えてみればルーターを借りてきたことはよかった。今はいろんな施設・カフェなどフリーWi-Fiは当たり前のようにある。よって海外ではデータローミング・モバイル通信をオフにしWi-Fiのみの利用でしのぐ人も多いはず。しかし俺みたいに事前にネットで購入したEチケットばかり持ってきてる奴はそのチケットを利用する際にネット環境があった方が心強い。ソフバン世界対応サービスでも良かったが一日約3000円となかなか高くつくので、物は試しとWi-Ho!を使ってみた。フル充電してルーターだけ持ち歩くならそんなにかさばることもない。充電も6時間はもつようだ。家族とのLineも終わったところで備え付けのヒーターが切れているのに気づく。時間が来ると切れるようになってんのかな。いくらいじっても作動しない。ん? ん⁉ まあいいもう寝よう。
今日は晴れ。朝からアイラ島を散歩し、近くの生協coopで迷いながらもソーセージロールを買ってコーヒーと一緒に朝食を済ませる。午前中のバスでラガヴーリン蒸留所へ。今日もやはり風は強い。ビジターセンターでは数人の日本人客がいた。さっきラガヴーリンでバスを降りるとき、ポートエレンまで歩いてどのくらいかドライバーに訪ねると40分だと教えてもらった。逆算してみるとここの滞在時間は約40分。今から1時間半後にポートエレンでバスに乗ることにした。実際にアイラの海岸通りを歩いてみたかったのと、昼過ぎにボウモア蒸留所でツアー予約をしていたからだ。ラガヴーリンはこじんまりとした客間があり照明も少し暗め。一通り見終わると、ポートエレンへ向かって歩きはじめた。写真や絵ハガキで見たアイラの壮大な風景がそのままそこにあった。歩くこと50分、バス停に着いた。町まで40分、バス停までは50分だった。ホットスパーでジュースを買ってしばらく待つと時間通りにバスが来た。ボウモアに戻りツアーまで少し時間があったので明日のポートエレンへのタクシーを手配するため、昨日アイラのウイスキーショップで教えてもらった案内所へと向かう。
カウンターにいた女性に訪ねると、明日朝一のフェリーの出航場所が変更したと教えてくれた。うそうそ!?強風のためポートエレンからポートアスケイグに同時刻のまま変更となっていた。携帯を見ると確かにメールが来ててその旨が書かれている。見落としてるじゃん。いやこれ分かんないよ。ここに立ち寄らなかったら大ミスかましてたかもしれないので感謝。タクシーも手配してもらいスッキリしてボウモア蒸留所へ向かった。ビジターセンターには若い女性スタッフが3人いて、早速ツアーの代金を支払う。お土産コーナーがあり二階のバーラウンジで時間まで待っててくれとのこと、言われるままに階段を上がっていくと海が見渡せる素晴らしい客室があった。数人がテーブルで飲んでいて、前のツアー客だろうと思った。右手にはカウンターがあり、そこでボウモア・ハンドフィル56%をもらって飲んだ。うまっ!琥珀というより褐色に近いそのボウモアは上品な口当たりと特有のフルーツフレーバーにスモークが心地よくどっしりと広がり「ようこそボウモアへ!」と言ってる気がした。笑 酒が身体に沁みるとはこのことだろう。ツアーが6名で始まり、ラフロイグと同じように大麦が敷き詰められたフロアからモルトミルの説明そしてマッシュタン、ウォッシュバックと続いた。ポットスチルの蒸留工程を経てヴォルトシリーズでも知られる第一熟成庫も見学。その他詳細は省くが最後にビジターセンターへ戻って15年と18年を試飲させてもらった。ツアーの参加者とは見学中に自然と打ち解け、最後の試飲の時には仲良くなっていた。同じ目的を持ってここにいる。国は違えど波長が合うわけだ。明日は朝からタクシーで東の港「ポートアスケイグ」へ。そこからカルマックフェリーに乗りケナクレイグへ、スコットランド本島へ戻る。楽しみだ。